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『続明暗』

水村美苗が、漱石の絶筆となった『明暗』の続編を書いて、それが受賞していたなんて知らなかった。

というわけで、『明暗』を読み直してからの『続明暗』が寝る前のお楽しみだったのに終わってしまった。

これは…。

漱石門下生たちがご存命のご時世だったら(その時受賞なんてしていたら)、

揃って激昂して大変な騒ぎだろうなとまず思う。百閒、言葉がうまく出なくて憤死。


水村美苗ははさみをバッサバッサと入れて、自分好みの現代的な話にしてしまった。

漱石版では、強気ながらもまあまあ日本の妻らしく大人しくしていた延子だが、

水村版では「延子は男がたじろぐような妙な勢いを有った女であった。」と、夫のいる温泉宿に押しかける。

えっそうだったの?という感じで、登場人物が(特に女が)塗り重ねられていて、面白い。

自由な清子は、自由だが正義感のある清子に。金持ちの吉川夫人は、金持ちの上に嫌らしい吉川夫人に。


一方漱石は男たちが面白い。

反社会的な小林君は、漱石版の方が生き生きしている。(反社会的という事がまだ珍しい時代だったからかも

しれない。)


主人公の津田にお金を借りに来たくせに、

「お前にもらうんじゃない、お前の〈余裕〉にもらうんだ」と言い出して、津田が「じゃあ返せよ」というと

「〈余裕〉は僕に返せとは言わない」と返さない。面倒くさいやつ。

そんな小林君の「サンクス。」はちょっとかわいい。


色んな作家の『続明暗』アンソロジーがあったらいいなあ。
by watanabeyukow | 2012-10-08 16:16 | Diary


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