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しゃぶしゃぶ デ・ジャヴ

 

会社員の頃、深夜に案出しのために、よくファミレスやスタバに行っていた。

当時の自宅近くのジョナサンに行くと、よく背中を丸めてノートパソコンに向かうクドカンがいて、

全然知り合いではないので、心の中で「おっすクドカン。今夜もがんばろうぜ」と話しかけていた。


あるときしゃぶしゃぶのたれのCMを考えに、深夜もやっている六本木のスタバに行った。

ソファ席で一人でガリガリ仕事をしていると、「こっちのソファ使ってもいいですか」と話しかけられた。

「どうぞ」と言って仕事を続けたが、その、30代に見える育ちのよさそうな男性は、

ちょっと様子が変わっていた。


しばらくして、どんなきっかけだったか忘れたが話しかけられた。

きょとんとしていて、ナンパする感じではない。

自分は仕事をしている、あなたは何をしに来ているかと聞くと、

「ほらここに大きな本があるでしょう。」と膝の上を指さして、

「この本を書いているんです。」と言った。


膝の上には何もなかった。

手にも何も持っていない。


明らかに地上から浮き上がっているようなので、この人には何を話しても大丈夫だと思い、

今度は今やっている仕事の説明をきちんとした。彼は真剣に話を聞き、真剣に案を考えてくれた。

しばらく話した後、これは終わらないと思って、

「ありがとうございました。もう少し考えますね。本を書いてください。」と言って、

また一人で仕事をしていると、

ずいぶん経ってから「あの、いいですか?思いつきました。」と言う。

あまり期待せずに話をきくと、それは、離散した一家の壮大な再生ストーリーだった。


家出した父親は、よその土地で口にしたしゃぶしゃぶのたれによって、家族で過ごした日々を思い出す。

「しゃぶしゃぶをひとくち食べたとたんに、“しゃぶしゃぶ デ・ジャヴ”というテーマ曲が流れるのです。」

3回分作らなければならないと話してあったので、きちんと、物語を3回に分けて考えてくれていた。

家族のそれぞれのキャラクターも、テーマ曲のイメージもはっきりしていた。


すごくいい話だ。2時間くらいかかりそうだけど。


「これもらってもいいんですか?」と聞くと、

「いいですよ。テレビで観られたら面白いですね。」と言って、にっこりした。

そしてそのあとはまた各自作業に戻り、案の一つとして、しゃぶしゃぶ デ・ジャヴ版も短縮して作った。

しばらくして、その人は立ち上がり、品よく去って行った。



翌日の会議で、しゃぶしゃぶ デ・ジャヴは、あっさりボツになった。



あの人はこれから有名になって、メディアでみることになるのかな、とちょっぴり思ったが、

まだ一度も見たことがない。
by watanabeyukow | 2013-07-12 21:18 | Diary


わたなべゆうこ のブログ


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