『還らぬ息子 泉へ』


「忘れられない本がある」と教えてもらって、読んでみた。


1979年、高校一年の少年(朝倉泉)が祖母を刺殺し、その後近くの経堂ビルから投身自殺した。

少年の部屋からは長文の遺書、犯行メモ、犯行の詳細を吹き込んだ録音テープなどが見つかり、

事件当時は現代社会問題として話題を呼んだ、らしい。

朝日新聞の本多勝一氏による取材記事が新聞に載り、記事は次第に社会環境問題から母親批判に至った。


この本は、少年の母である朝倉千筆さん(この本中で朝倉和泉に改名)が、

息子の友達やその母へのインタビューを通して、また、泉君の成長の思い出を振り返りながら、

「一体どうしてこのようになったのか」を探し続ける日記だ。


過干渉の祖母(和泉さんの実母)を、泉君は嫌っていた。

和泉さんは、それを知りながらも引き離すことができなかった。

母親の淋しさをよく知っていたからだ。それでも、引き離すべきだったと後悔し続ける。

泉君の弱さも客観的に受け止めていて、大人の自分が意地を張りあってしまったと悔やむ。

実母を恨みながら、泉君に怒りながらも、夢の中では母や泉君が和泉さんに優しく語りかけてくる。

和泉さんは朝起きるなり号泣してしまったりする。

残された妹の千尋ちゃんは、「ママ、死なないでね」と不安を抱えている。


凄まじいことに、和泉さんは「幼い頃の思い出」から受験戦争、泉君の高校時代について語り、

社会の母親批判にこたえ、事件の真実を探し、事件の推論を「泉の日記-事実を基に構成したフィクション」

として泉君の言葉で書いている。

それから自分の目から見た事実として、「一月十四日のこと-私の証言」を書いている。

和泉さんはシナリオ作家であるので、客観的に書こうとし、真実を書こうとしているが、

自傷行為のように見えなくもない。 けれども、書かなければ生きていられなかったのだろうとも思う。


子どもの問題で、母親のせいにするのは簡単で、標的を定めて攻撃できるから人は面白がる。

けれどもこの本を読むと、色々なことが運悪く重なって、泉君の性質もあって、

たまたま悪い方向に転がってしまっただけなのだと分かる。

誰のせいという問題ではなく、どうすれば良かったのかも分からない。

それでも「自戒の書」として時々これを読もうと思うのは、和泉さんの気持ちや泉君の気持ちが

分かるからだ。自分だって同じようにしただろうと慰められさえする。

全く他人事とは思えず、誰にも起こりうることだ。色々なことがきっとそうだ。


付録として48ページにわたる泉君の頭でっかちな遺書が巻末にある。

だが、遺書とは別に本文中に出てくる泉君の言葉からは、賢い遺伝子を持ったか弱い少年が思い浮かぶ。

彼がそれを乗り越えて生き延びていたら、いい作品を残したのではなかろうか。

もったいない事をしたなと思う。




『還らぬ息子 泉へ』 朝倉和泉著  中公文庫
by watanabeyukow | 2013-12-17 22:59


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