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『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』

東浩紀・津田大介らが〈チェルノブイリの観光地化に福島の未来を見る〉という関心のもとに、

実際にチェルノブイリを訪れたチェルノブイリ本。

第一部〈観光編〉では、体験した一泊二日の立ち入り禁止区域内ツアーの内容を、チェルノブイリ博物館の

展示と共に紹介。第二部〈取材編〉では、観光地化するチェルノブイリの現状と未来についての、

官民双方さまざまな立場の人へのインタビューを載せている。


東浩紀は、3.11直後から「福島第一原発は観光地にするのがいい」と言っていたような気がする。


この本の前書きでは、次のように述べている。

「…それでは、わたしたちは原子力技術を放棄するべきでしょうか。難しい問いです。

ただひとつ、つぎのようなことは言えます。フランスの思想家、ポール・ヴォリリオは、技術の発明とは

事故の発明だと指摘しました。(中略)未来に向かって進むことが、新しい事故の可能性の開拓なしには

ありえない-それは、わたしたちがいま享受している、科学技術文明の基本条件そのものなのです。

だとすれば、今後原子力を推進するにせよ放棄するにせよ、とりあえずは事故の記憶だけは失わない

ようにせねばなりません。未来は事故の可能性なしにはありえない-それは裏返せば、歴史とは、

事故の連鎖の記憶にほかならないということを意味しているはずだからです。

チェルノブイリの、福島の記憶を未来に受け継ぐために、「忘れてはならない」とお題目を唱える以外に

何ができるのか。それが本書を貫く問題意識です。」


チェルノブイリには、年間約14000人の観光客が訪れるらしい。

チェルノブイリの人々がなぜ観光ツアーをしているのか、なぜ博物館を作ったのか、という思いを

知るのは興味深い。事故から27年経った今、彼らは感情の先にいるようだ。


「忘れてはならない」という事に関して、

昨年ベルリンに行ったときに訪れたヨーロッパ・ユダヤ人犠牲者追悼碑が印象的だった。

ニューヨークの建築家、ペーター・アイゼンマンが設計したものだ。

1万9073㎡の敷地にコンクリート製の石碑2,711基がグリッド状に並び、人々はその間を歩く。

『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』_a0244523_4541476.jpg


端の方では石碑は1mほどの高さで足元も平らだが、中心部に行くにしたがって、

地面は波のような曲線で下り坂になっていく。

同じようにだんだん高くなる石碑は4.5mほどまでになり、記念碑群の外の世界が見えなくなっていく。


「怖い。隙間から、外の世界も外の世界からも見えているのに、気が付かないうちにどんどん沈んでいく」

と、ドイツ人の友人に言うと、「それを伝えているんだ」と言った。

「最初は平らだから全然平気でしょう。でも、歩いて行って真ん中の方まで入ってしまったら、

 助けて、私たちの事が見えているでしょう、と外の世界に叫んでも、もう周りからはよく見えないんだ。

 こちらからもだんだん見えなくなるし、声も届かない。」

ベルリンには、街のあちこちに、戦争の記憶が色々な形で生き続けている。

「忘れてはならない」を、大事にしている。


知らない時は単純で、知れば知るほど難しくなるという事はある。

でも、失敗した時に、どうすれば良かったのかを考えないと、その先には行けないような気がする。

忘れないで、考え続けたいと思う。



『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』 東浩紀編   株式会社ゲンロン出版  
by watanabeyukow | 2013-08-08 04:05 | Diary


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